16. 安倍さん

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2013年だったと思う。ニューヨークの本社近くで日本から来ていた知人と昼食をとっていた。「日本が変わりつつある」と彼はいう。

「またその話か」私は半信半疑だった。25年間、同じ話を聞かされたが何も変わらなかったじゃないか。

バブル崩壊後、日本経済は長いデフレと停滞に陥っていた。ブラックストーンも1998年に日本を去った。
 
彼は言い張った。「今度こそ本当だ。新首相の安倍晋三が、全く新たな発想で改革している。信じてほしい」

翌週、定例の月曜会議で私は会話を明かし、日本の分析を始めた。結論は、「日本は現実の世界へ戻りつつある」。安倍政権は株主の権利を強めて企業に変革を促していた。規制緩和で国全体の競争力を高めようとしていた。

「あの日本でそんなことが起きているのか?」私は疑いを捨てきれなかったが、答えは「イエス」だった。

日本人の顔つきも変わった。将来を悲観していた人たちが、再生の可能性に興奮している。変わろうと決断したのは日本人であり、彼ら自身が変化の始まりを感じていた。

初めて安倍さんに会ったのは2017年9月だ。ニューヨーク訪問中の彼が実業界の有力者を招いて朝食会を開いた。彼は「アベノミクス」の成果を誇らしく語った。

私は、20年の東京オリンピックの経済効果に注目していると話した。「もうホテルの部屋が取れません」とこぼす私に、「だったら日本でホテルを始めませんか?」と彼は切り返して笑いを取った。

以降、機会を捉えて会うようになった。彼は頭の回転が速く聡明だ。
多くの日本人と違い、率直な物言いだった。

日本企業との対話は革命のように一変した。我々外資との取引を受け入れ始め、将来性の乏しい事業を売る提案にも反発しなくなった。

劇的な変化はまだ大企業が中心だが、裾野も広がりつつある。当社は日本に復帰して、不動産や企業への投資、個人向けの投資商品の販売へと事業を拡大している。

21年、私が関わっている米国の財団は「世界ステーツマン大賞」を安倍さんに贈った。彼は世界的に存在感がある政治指導者で、大胆な政策を進める勇気ある人物だ。

だから翌年、彼が撃たれて命を落とした際は深い悲しみに沈んだ。世界の損失だ。

米国ではケネディ大統領も、弟のロバート・ケネディ上院議員も暗殺された。レーガン、トランプ両大統領も撃たれた。日本は政治的暴力とは無縁だと思っていた。なぜ日本で、なぜ安倍さんが.......。

本気で世の中を変えようとする人は、理性を失った人々を引き寄せる。変化を恐れ、権力を憎み、強い信念を持つ指導者に耐えられない者たちだ。人生の終わり方として、こんな悲しいものはない。

日本経済は良くなってきた。国民の心理が前向きに変わると、勢いは5年や10年は続く。著名投資家のウォーレン・バフェットが、「日本の商社株は50年間売らない」と発言して話題になった。日本の勢いが本物だという彼らしい言い回しで、私も同意する。

だが経験で学んだことがある。勢いは永遠には続かない。政府の考え方が大きく変わるとき、特に投資に敵対的な方向に動くときには、見方を再検討しなければならない。
 
日本が資本を呼び込み続けるためには、安倍流の改革を続けるしかない。家計や企業に眠る莫大な現預金を、生産的な用途へ振り向けるのだ。

初出:日本経済新聞(2026年10月)