投資失敗 羞恥と後悔で涙
決定プロセス 全面見直し
1985年にブラックストーンを起こして以来約40年、多くの出来事があった。なかでも3つが心に深く刻まれている。私の人生そのものだ。
1つ目は、創業3件目の投資でつまずいた痛恨事だ。同時に、その失敗こそが今に続く成功の礎となった。
89年に鉄鋼流通会社のエッジコムを買収したが、投資資金を1ドル残らず失った。鋼材価格が急落し、投資から半年後には事業が行き詰まった。
投資家の怒りは凄まじかった。米保険大手で買収ファンドに出資していたプレジデンシャル・ライフの最高投資責任者(CIO)は私を呼び、怒鳴り続けた。内容は忘れたが、声の大きさだけは鮮明に覚えている。
私は「うまくやってみせます」と大口をたたいていた。羞恥と後悔の念でいっぱいになり、涙がこみ上げてきた。私は心の中で誓いを立てた。「自分が上に立つ間、二度と投資家のお金を失わない」
私が招いた失敗なので、自身で直さなければならない。「何を間違えたのか」。自問するうち、答えが見えてきた。感情を排し、投資の機会とリスクを同じ厳しさで検証する仕組みがなかった。
我々は鉄鋼業界への投資経験がなかった。新たに加わったあるパートナー(共同経営者)はエッジコムの収益構造を分析し、「利益が鋼材価格の上昇に依存している」と警告していた。市況が反転すれば壊滅的な結果になる、と。
だが私は、別に採用した若いパートナーの見解を支持した。この案件を持ち込んだ人物だ。彼は前職時代から何年もエッジコムに関わっており、経験を過信してしまった。
以降、投資の承認方法を全面的に見直した。あらゆる投資案件は、経営陣で構成する投資委員会の2日前までに書面で提出しなければならない。パートナーが案件の弱点や見落としを洗い出し、質問を磨く時間を確保した。
委員会ではパートナーたちが攻撃的な姿勢で臨み、分析の前提は容赦なく問い直される。傍観は許さない。全員が発言し、投資について100%の責任を負う。
案件を提案したチームは大抵、答えられない質問に直面する。すると差し戻されて、2回目ときには3回目の会議に臨まなければならない。
私たちは性急に意思決定を下さなくなった。検討が終わる頃には、提案は見違えるほど強固で、規律があり、根拠に裏打ちされている。
自分の提案が却下されれば失望する。だが恨みやわだかまりは一度も生じていない。質問を重ねるほど、提案者の学びも増えるからだ。
会議の目的は提案者を辱めることではなく、その逆だ。提案者、チーム、会社、そして何より顧客を守るためにやっている。資産運用の世界で顧客が本当に怒るのは、自分のお金を失ったときだけだ。
苦しい経験だったが、エッジコムの失敗は計り知れない価値を生んだ。あのような失敗を繰り返し続けていたら、事業を継続できなかった。
私は執務室の机の上に、エッジコムに関する品を置いた。「トゥームストーン(墓石)」と呼ぶものだ。案件に関わった人々に贈る記念品で、勲章のようなものだ。
だが私は特大で作成し、死を象徴する黒で染めた。そして毎日睨みつけながら自分に問い続けた。「まずいことを見落としていないか?」と。
数十年が過ぎた今、トゥームストーンは机の上にはない。だが私の頭の中には存在し、同じ警告を発し続けている。
初出:日本経済新聞(2026年10月)