ブラックストーンが実践するAIを活用した企業価値向上

ブラックストーンが実践するAIを活用した企業価値向上

 

藤田:皆様こんにちは。ブラックストーンのプライベート・ウェルス部門で日本・韓国の責任者を務めております、藤田です。さて、人工知能に非常に大きな注目が集まっていますが、AIは事業運営、投資判断の基準、さらに産業間の競争構造そのものを大きく変えつつあります。一方、それが根本的な変化なのか、一時的な流行にすぎないのかを見極めることは容易ではありません。このような環境下で、ブラックストーンでは、AIを取り巻くエコシステム全体への投資を進めるとともに、AIを積極的に活用し投資先企業の成長を実現しています。本日はブラックストーンの企業価値向上チームのグローバル責任者であり、過去にはマッキンゼー・デジタルのグローバルヘッドも務めた、ロドニー・ゼメルを招き、AIの現状と今後の可能性についてお話ししたいと思います。

まずはご自身が率いているブラックストーンの企業価値向上チームについて、その概要と、投資先企業の価値向上をどのように支援しているのかを教えていただけますか。また、足元、投資先企業を支援し、企業価値向上を目指す中で特に重視されている要素についてもお聞かせいただけますか。

ゼメル:こんにちは。このような機会をいただき、大変嬉しく思います。ぜひチームについて、紹介させてください。企業価値向上チームには、大きく2つの専門領域があります。一つは、各業界に精通した経営・事業運営に関する専門性です。投資先企業のCEOと連携し、価値向上施策を推進します。もう一つは、その施策の実行を支える「機能」領域の専門性です。具体的には、人材、調達、医療保険制度、AIなど、幅広い領域で知見を有しています。このようにさまざまな領域で支援を行っていますが、足元では特にAIに重点的に取り組んでいます。企業価値向上チームの役割は、経営に関する知見を活用し、投資実行時に見込んだ企業価値向上の実現につなげることです。投資先企業の経営陣と連携し、各社ごとに策定した優先課題や計画に沿って取り組んでいます。そして、各社の業績改善を推進するだけでなく、その過程で得られた知見を投資先企業全体や将来の投資判断にも活かしています。

足元、最も重点的に取り組んでいるのは、テクノロジーとAIの実装です。AIを実装すること自体が目的ではありません。業務効率を高めることはもちろん、特に事業成長の加速を重視しています。AIに加えて、従来型の機械学習やデータサイエンスも活用しながら、投資先企業全体に対して事業成長、生産性の向上、意思決定の高度化に取り組んでいます。その実行を支えるのが、私たちのAI実装チームと、外部のテクノロジー企業との連携です。
また、もう1つ重要な要素は、人材です。投資先企業に適任なCEOをトップとして選任し、そのリーダーシップのもとで適切な経営陣および取締役会の体制を整備することは極めて重要です。そのため、私たちは人材採用や組織体制の構築にも多くの時間を費やしています。世界が急速に変化する中、最適な経営陣の選定はさらに難しくなっています。

私たちが求めているのは、急速な変化に適応できるCEOです。従来の方法を踏襲するだけでなく、CEO自らが先頭に立ち、業界の変革を主導しようとする人材が必要です。短期的な業績目標の達成と、長期的な成功に向けた取り組みを両立できるバランスも重要な資質です。

藤田:特に企業の経営ということを考えますとAIは今、多くの企業にとって重要な経営課題の一つとなっています。AIが最も大きな価値を生み出す領域や、最も大きなディスラプション、いわゆる破壊的変化を引き起こす可能性のある領域はどこだとお考えですか。

ゼメル:「AI」と口に出すのは簡単ですが、実際にAIを活用して価値を生み出すのは、非常に難しいことです。技術は急速に進歩していますが、AIの導入に関して実際には多くの企業がまだ試験導入段階にあります。個々人で普段の作業における効率化のツールとして使い始めていても、それを収益向上といった具体的な成果に繋げるのは、簡単ではありません。これまでの事例を踏まえると、実際に価値につながりやすいのは、明確な責任者が任命され、具体的な事業目標のもとで、AIを実際の業務プロセスに組み込んだ時と考えています。汎用的なツールを全社に導入したり、試験導入を行うのではなく、業務領域を特定し、それ自体を変革することが重要です。
 
ブラックストーンの投資先企業には、AIを活用できる領域が数多くあります。特に6つの領域に集中的に取り組んでおり、取り組み全体の80%を占めています。コーディング支援、顧客体験、知識の活用、コンテンツ制作、継続的な改善、業務の自動化です。英語では、いずれも頭文字がCの言葉ですね。特にAIの活用が期待できるケースには、いくつか共通点があります。作業頻度が高く、作業量の多い業務であることや、その企業内に十分な独自データがあること、明確な責任者を任命できる状況にあることなどです。そして、取り組みの当初から、試験導入で終わらず、全社規模で成果を生み出す方法を考えられることが重要です。

避けるべきは、「どのAIツールを購入すべきか」「(2つのツールを比べて)どちらを使うべきか」と考えることです。優れたツールは数多くあります。より重要なのは、どの業務領域の改善に取り組むべきなのかを問うことです。AIは多くの領域で活用できますが、どこから始めるのか、優先して取り組むべき業務領域は何か、成果をどのように評価するのか、そしてAI活用を大規模に拡大するために業務をどのように変える必要があるのかを考えることが重要になります。
 
次に、AIによってディスラプション(破壊的な変化)が起こる領域についてよく議論が交わされていますが、一概に予測するのは難しいと思います。企業価値向上チームが注目しているのは、情報量の多い業務や反復的な定型業務やルールに基づく業務、人手を多く要する業務です。例えば、会計、税務・財務アドバイザリー、法務、ITサービス、医療機関の収益管理、業務処理、外部委託業務などです。こうした業務には、AIを活用できる大きな余地があります。一方で、これらの業界がなくなるわけではありません。変化するのは、業界内における競争のあり方です。今後は、「優秀な人材をどれだけ有しているか」ではなく、「優れたデータや業務プロセスを構築し、それらを事業運営モデルに組み込み、顧客に対して独自の価値を提供できるか」、が競争力を左右するようになるでしょう。そうした企業は、AIによる付加価値を自社に取り込み、競争優位性を維持できると考えています。
 
特にAIの活用効果が大きいのは、複数工程が連動する複雑なプロセスがあり、高度な専門性を持つ人材が顧客対応を担う業務です。例えば、財務・税務アドバイザーの顧客はAIからではなく人を通じて助言を受けたいと考えるでしょう。一方で、顧客と接点を持たないバックオフィス業務の人員が5人なのか3人なのかは、顧客にとって重要ではありません。私たちは、そこに効率化の余地があると考えています。

一方で、高度な技術を要する業務、リスクが非常に高い業務、人の判断や裁量に大きく依存する業務は、AIによる影響を受けにくいと考えられます。判断を誤った場合の影響が非常に大きい分野、高度かつ複雑な業務プロセス、あるいは独自のデータを持つことで優位性が得られる分野は、AIによる変革は比較的難しいでしょう。

ブラックストーンの投資先企業全体において、表面的なAI導入に終わらせないことを重視しています。企業による表面的なAI導入が多く散見されており、これらはEBITDAの向上に繋がっていません。私たちが取り組むべきなのは、AI導入により投資先企業のEBITDAに確かな改善が見込まれる領域です。

藤田:ブラックストーンでは、約280社[ 1 ] の投資先企業に対する企業価値向上の取り組みの一環として、先ほどおっしゃっていたソフトウェアエンジニアリング、顧客体験、データ統合、コンテンツ制作、サプライチェーン改善、管理業務の自動化という6つの領域で専門チームを組成し、投資先企業へのAI導入を、企業価値向上チームが推進していますね。投資先企業において実際にどのような成果が生まれているのでしょうか。またAIへの対応を上手く進めている企業と、そうではない企業との差が出ているかと思いますが、そういった差はどこにあるとお考えですか。

ゼメル:まだ始まったばかりですが、AIは試験導入の段階から、投資先企業全体で事業運営に成果をもたらす段階へと移行しつつあります。AIの実装を全社規模に拡大し、具体的な成果に結びつけることで価値が創出されると考えています。そのため、テクノロジー部門だけが主導するのではなく、事業部門の責任のもとで進めることが必要です。

ブラックストーンでは、AIを活用した価値創出を実現するために、AIによる変革における5つの評価軸を定めています。第一に、経営陣が積極的に関与していることです。CEOが主導し、1つか2つの優先課題を特定し、課題解決に適した責任者を任命します。第二に、事業部門が責任を持つ、あるいは他部門と共同で責任を持つことです。投資先企業には優れたCIOやCTOが数多くいます。しかし、事業部門と共同で責任を持ち、共に実装に取り組まない限り、AI活用が利益貢献にまで結びついた事例は私たちの経験上では確認できていません。第三に、ROI目標を明確にすることです。AI実装に取り組む初期段階からROI目標を高く設定することで、取り組みに対する意欲を高め、組織全体のリソースを活用することができます。代わりに別の指標を設定する事例を見かけますが、EBITDAや売上高の成長に結びつけられなければ、必ずしも取り組む価値があるとは言えません。第四に、初期段階からスケール化への道筋を計画することです。多くの企業では、まず試験導入を行うことだけを考えます。しかし、最初から全体規模への実装を前提にすれば、採用するツールも変わります。実装範囲の拡大やそれに伴う人材確保への本格的な投資が必要になります。事業モデルの変革への投資が必要となり、試験導入ではなく、組織全体を変える取り組みとして捉えることができます。第五に、データを活用することです。誰もが同じようなテクノロジーを利用できる世界では、何が競争優位性を生むのでしょうか。今後優位性をを得やすくなるのは、得られたデータから独自の知見を引き出し、そのデータを活用して事業上の参入障壁を築くことができる企業であると考えられます。

ブラックストーンの日本での投資事例をひとつご紹介したいと思います。私たちが非常に期待している企業で、テクノプロという会社です。同社は、日本の大手産業企業に対して、技術およびエンジニアリングサービスを提供しており、約28,000名のエンジニアを抱える大型企業です [ 2 ]。

ブラックストーンは、同社をよりAIを事業の中核に据えた企業へと変革できる可能性があると考え、投資を実行しました。さらに、本案件は日本市場の特徴を踏まえると、一層魅力的に映ります。第一に、ソフトウェア・エンジニアや技術者が大量に不足しています。第二に、日本以外の国々では、人件コストに競争力のあるアジア地域などの人材を活用するオフショア開発が発展していますが、日本ではあまり一般的ではありません。そのため、日本企業はテクノロジーによる変革を進める際、テクノプロのような人材サービス企業への外部委託や社外リソースへの依存度が非常に高くなっています。ブラックストーンは、日本経済において重要な役割を果たす同社を買収し、AIを活用することでさらなる成長機会があると考えました。ただし、その実現は決して容易ではありません。同社には、すでに顧客基盤および従業員を深く理解する優れた経営陣がいましたが、新たにAIに精通した責任者を加えることで、変革に取り組み始めました。

その一部は、テクノロジー部門です。ブラックストーンはAnthropicと提携し、テクノプロのエンジニアを対象に、Claude CodeをはじめとするAIコーディングツールの研修を実施しています。さらに、テクノロジー部門だけではなく事業モデルの変革も必要です。例えば、顧客との間で時間単価型の契約を締結している場合、AIによる生産性向上の効果を自社の収益として維持することは非常に難しくなります。そのため、私たちは人材のスキル向上を図り、テクノプロが事業を展開する市場においてAIの活用を前提とした新しいソリューションを開発する必要があります。そして顧客には、従来とは異なる新しいタイプのエンジニアであることを示し、固定報酬型や成果連動型の契約を検討してもらう必要があります。このように事業モデルを変革することで、AIがもたらす生産性向上の恩恵を顧客と共有することができます。このような変革は、これから進んでいくでしょう。

藤田:まさにこういったところを今後加速させていくためにもブラックストーンは、Anthropicと共同でOdeという新たなAIサービス企業を設立することを発表しました。この新会社はどのような課題を解決しようとしているのでしょうか。また、なぜ今このタイミングで設立に至ったのか、その背景についても教えてください。

ゼメル:Odeには大きな期待を寄せています。この会社を設立した理由は、市場に十分な解決策が存在していない課題に取り組むことができると考えたからです。企業にとって足元の制約は、高性能なAIを手に入れるかどうかではありません。AIを実際の業務プロセスに組み込み、全社規模で実装できるかどうかです。こうした支援を行う大手テクノロジー企業や小規模な専門事業者は数多くあります。しかし、難易度の高い課題を解決するには、トップクラスのソフトウェア・エンジニアとAIに精通した人材が必要です。こうした人材を十分に擁する大手企業は多くありません。また、AIモデルの進化の方向性を理解したうえで取り組む必要があります。特に難しいのはOpenAIやAnthropicなどAIモデル開発企業が次にどのような技術や機能を発表するか分からず、それによって現在構築しているものが陳腐化してしまう可能性もある点です。

そこで私たちは、トップクラスのエンジニアと共に、このようなAI変革における課題を乗り越え、企業におけるAI実装を推進するサービス企業をつくれないかと考えました。その実現のため基盤モデルを開発する企業と組むことで、一握りの優秀な人材を集めることにもつながり、さらに、AIモデルの最新の状況だけでなく、今後の方向性を理解することができます。私たちはAnthropicと提携し、最終的には他の投資運用会社とも連携しました。Odeはブラックストーンや他の投資運用会社の投資先企業だけでなく、幅広い企業を支援していきたいと思います。Odeが、AI実装における難しい課題の解決を加速させ、ビジネスの現場全体へのAIの普及を後押しすることを大いに期待しています。

実際に、税務・財務アドバイザリー事業を展開するCitrin Coopermanなど、ブラックストーンの投資先企業でもOdeによるAI実装の支援が進んでいます。

藤田:本日は、当社がAIをどのように企業に実装させているのか、そういったところを本日はお話しさせていただきました。ロドニー・ゼメルと共に、AIがどのような革新的な変化を世の中に生み出しているのかといったところに触れられたのではないかと思います。急速に進化するAIの潮流の中で、ブラックストーンもまた、投資機会の発掘や投資先企業の価値創造において、新たな視点と可能性を追求しています。プライベート投資におけるAIの活用や、投資先企業の価値向上に向けた取り組みについて、ご理解を深めていただく一助となれば幸いです。 本日はご清聴ありがとうございました。

本動画では、ブラックストーンのプライベート・ウェルス部門で日本・韓国の責任者を務める藤田薫が、企業価値向上チームのグローバル責任者であるロドニー・ゼメルをともに、AIを投資先企業に実装し、その成長と企業価値向上につなげるためのブラックストーンの取り組みについて掘り下げていきます。日本での投資事例を踏まえた、直近の案件についてもご紹介しております。

本動画では、ブラックストーンのプライベート・ウェルス部門で日本・韓国の責任者を務める藤田薫が、企業価値向上チームのグローバル責任者であるロドニー・ゼメルをともに、AIを投資先企業に実装し、その成長と企業価値向上につなげるためのブラックストーンの取り組みについて掘り下げていきます。日本での投資事例を踏まえた、直近の案件についてもご紹介しております。

2026年3月31日時点。
2026年3月31日時点。