規模を活かしたAI導入:
ブラックストーンのCTOと
企業価値向上チームの
グローバル責任者が語る

2026年5月7日

人工知能(AI)は、事業運営、投資判断の基準、さらに産業間の競争構造そのものを大きく変えつつあります。一方、根本的な変化なのか、一時的な流行にすぎないのかを見極めることは容易ではありません。本記事では、ブラックストーンの最高技術責任者(CTO)であるジョン・ステッカーと、ブラックストーンの企業価値向上チームのグローバル責任者であるロドニー・ゼメルが、AIの現状と今後について語ります。

テクノロジーがもたらした成果

99%

AIが1回の推論のためにかかるコストの減少率 [ 1 ]

消費者への普及

14億人

月間アクティブユーザー [ 2 ]

企業への導入

79%

少なくともいずれかの事業でAIを活用する企業の割合 [ 3 ]

1. AIが最も価値を生む領域およびディスラプション(破壊的な変化)が起こる可能性のある領域はどこだと考えますか。

ゼメル:足元、最も魅力的な機会は、インフラストラクチャー領域の周辺にあると考えています。データセンターや計算処理、またそれらに密接に関連している分野で、ブラックストーンが「AIの基盤インフラ」と呼んでいる領域です。一方、一部のコンテンツ作成や法務業務など、現在のAIモデルでも代替可能な一部の専門的な業務は、厳しい局面を迎えています。

最大の投資機会があるのは、経済活動の大部分を担う製造業や物流、小売といった実体経済に根差した事業です。これらの分野はAIとの結びつきが強いセクターではありませんが、工場内のレイアウトやロボット技術から、マーケティング、サプライチェーンに至るまで、AIの活用によって企業経営を変革する方向へと着実に移行しています。

ステッカー:ソフトウェアエンジニアの観点からは、最もAIの影響を受けているのはエンジニアリングで用いるツールだと思います。ブラックストーンのテクノロジーチームでは、1年前と比べて業務効率が大幅に改善しました。同じような現象が創薬やマテリアルサイエンス(金属などの材料の性質を物理的・科学的に研究し次世代の材料開発を行う研究分野)など、ソフトウェアと同様に設計・実証・改善を繰り返しながら開発を進める分野にも広がっていくと考えています。

2. ソフトウェアは、AIによるディスラプションの影響を受ける対象として最も注目されている領域の一つです。実際にはどのような変化が起きていますか。

ゼメル:ソフトウェアは非常に広いカテゴリーであり、一括りにして語ることはできません。例えば、汎用的なデータを基に構成されたシンプルな分析ツールは、AIに置き換えられやすいと思います。一方、独自データを蓄積し、実際の現場業務を理解したうえで企業の業務プロセスと深く結びついた基幹システムなどは、代替が非常に難しく、むしろAI導入の流れが追い風となる可能性があります。ソフトウェア業界の中でAIへの対応を上手く進める企業とそうでない企業との間で、成長の格差が一段と大きくなると考えています。

ステッカー:ブラックストーンが投資実行前にソフトウェア企業の精査を行う際には、公開情報から再現することができない独自データをどれだけ保有しているかを注視します。独自データこそが競争優位性となるからです。専門人材および独自データを活用し、それらが業務プロセスに深く組み込まれている場合、AIはそのソフトウェア企業の技術を脆弱にするのではなくむしろ強化することができます。また、インターフェース自体も変化しています。今後はユーザーがウェブサイトにログインしてデータを手動で入力するのではなく、AIが代わりに直接データにアクセスする形が主流になっていくでしょう。反対に、誰もがアクセス可能なデータにインターフェースを乗せた単純なソフトウェアは、簡単に代替することができます。しかし、業務プロセスに深く組み込まれたソフトウェアはそうではありません。さらに、企業精査の際に注目するもう一つの観点は、どの程度顧客からの信頼を獲得しているかです。顧客が事業運営に際して必要不可欠だと感じているソフトウェア企業は、長期的に優位に立ちやすいと考えています。一方、特段の理由なく習慣的に使われているにすぎない企業は長くは続かないでしょう。顧客の信頼を基盤とする企業が新たな競合として台頭し、このような企業のシェアを徐々に奪っていくと考えています。

3. AIによってブラックストーンの投資判断の方法は、どのように変化しましたか。

ステッカー:AIの活用により、投資チームの生産性が向上しています。例えば、投資案件の精査に必要な何千枚もの資料について、以前は確認に長時間を要していた作業が、AIの導入により数分で行うことができるようになりました。作業の効率化を図ることで、リスク分析や案件ストラクチャーの精査など、投資家の皆様により高いリターンを創出するための投資判断の検討に時間を割くことができます[4]

また、案件発掘の段階でもAIを活用しています。ブラックストーンは、規模の大きさを背景に、豊富な案件発掘の機会を有しています。AIを用いて投資判断の検討プロセスを短縮することで、高いリターンが見込まれる案件により多くの時間を割くことができます。プライベート・エクイティ部門や不動産部門では、初期的な案件資料から財務モデルへの落とし込みを迅速に行うツールなど、実務的なツールを活用し、定型作業を削減することで、人間の判断力や洞察力をこれまで以上に生かしています。

4. ブラックストーンは、270社超の投資先企業を保有しています。どのように投資先企業全体にAI導入を進めていく予定ですか。

ゼメル:ブラックストーンは、投資先企業を①AIが事業の中心にある企業、②AIによって大幅な利益拡大の余地が見込まれる企業、③AIの影響が限定的な企業の3種類に分類しています。もっとも、AIの影響が限定的な企業は、急速に減少しています。


ブラックストーンでは、AIの活用が期待できる領域として、ソフトウェア・エンジニアリング、顧客体験、新たなアイデアを創出するためのデータの融合、コンテンツ制作、サプライチェーンの継続的な改善、管理部門業務の自動化、の6つにおいてそれぞれ専門チームを立ち上げ、プロジェクトを推進しています。単に質問に答えるだけのAIではなく、業務の完了まで遂行できるAIを活用することを念頭に置いており、6つのうち大半の領域ですでに効果が見られています。

課題は必ずしも技術そのものではなく、AIを導入する企業の実行力です。試験的に実装をしたにも関わらず、EBITDAに貢献しない事例を非常に多く見かけます。ブラックストーンが企業を見極めるポイントは、最高経営責任者(CEO)自身が率先してAIの導入に動いていること、明確なROI(投資収益率)目標があること、競合優位性を示す定量的なデータがあること、導入時から規模の拡大を想定していること、と明確に定められています。AIの活用により定型業務を減らし、人間は人間にしかできない業務に集中すべきだと考えています。

5. 雇用と生産性の関係性については、どのように考えていますか。

ゼメル:足元のデータではまだばらつきが見られますが、過去を振り返ると、技術革新により雇用者数は減少するのではなく増加してきたことがわかります[5]。より本質的な議論としては、雇用者数ではなく生産性を見る必要があります。現在ソフトウェアエンジニアが経験している変化と同様の現象が、今後10年間で他の様々な職種にも広がっていくと考えられます。

ステッカー:生産コストの低下は需要の拡大をもたらします。AIでも、インターネットの普及時に見られたのと同様の動きが起きています。ディスラプションは生じることが想定されますが、長期的な雇用への影響は引き続き注視する必要があります。生産性向上の恩恵を受けるのは、いわゆるオフィス業務だけではなく、事務的な作業に多くの時間を割いているあらゆる分野に広がると見ています。

6. AIには膨大なエネルギーとインフラが必要です。これはどのような投資機会につながりますか。

ゼメル:制約要因となり得るのは、電力です。AIモデルは初期段階と比べて大幅に効率化され、必要とする電力は約100分の1程度の水準まで改善していますが、効率性が向上したことによりむしろ需要が増加しています。また、必要とされているのは発電だけではなく、老朽化した送配電網の更新や系統接続も同様に必要とされています。最近のデータセンターは、数年先の需要分があらかじめ売約されているケースも少なくありません。足元のデータセンターの建設状況は需要を見越したものではなく、需要に追いつくためのものなのです。

ステッカー:データおよびそれを処理する機能に対する需要の爆発的な増加が、あらゆる変化の基盤になっています。多くのデータを処理することで優れたAIモデルが育ち、それがさらなる利用拡大および関連インフラへの投資を促します。今から5年後には、AIは常に必要不可欠な存在となっているでしょう

米国におけるデータセンター需要の加速 [ 6 ]
米国における新規賃貸借契約(単位:メガワット)

Area Chart in Japanese Area Chart in Japanese

7. AI関連への投資が、投機的なものではなく長期的な投資に値すると考えるのはなぜですか。

ゼメル:ITバブルは、需要に先行して巨額の固定費が積み上がったことが原因で崩壊しました[7]。一方、足元ではAIに対する明確な需要があり、その市場規模は過小評価されていると考えられます。もちろん、歪んだバリュエーションに基づく投資や過剰投資が起こる可能性は高いですが、前提条件が当時とは大きく異なります。

ステッカー:AIの活用により製品・サービス化するためのコストは、劇的に低下しました。アイデアの状態からコードの作成、試作品の実装、さらにそこから顧客の手元に届くまでのコストは、以前と比較すると非常に低い水準です。つまり、より多くの試作が可能となり、製品・サービス化に成功する企業も増えることが見込まれます。特に、中小企業における成功事例が増加する可能性があります[8]。また、製品・サービス化まで到達できなかったとしても、以前のように数十億米ドル規模の投資資金を損失計上するのではなく、そのごく一部の費用で賄われるプロジェクトを中止するようなものなので、失敗に伴うコストは限定的です。

ゼメル:あらゆるセクターにおいて、AIを上手く活用できる企業とそうではない企業の差は広がっています。AIを実装する能力に対する評価はかつてないほど高まっている中において、経営陣と積極的および密接に連携することが極めて重要です。

売上高に対する設備投資額の割合 [ 9 ]

Bar Chart in Japanese Bar Chart in Japanese

8. ブラックストーンは、Anthropic(アンソロピック)と共同で新たなAIサービス企業を設立することを発表しました。この新会社はどのような課題を解決しようとしており、なぜこのタイミングで設立に至ったのでしょうか。

 ゼメル:中規模の企業はAIの活用によって大きな恩恵を受ける可能性を秘めていますが、最先端のAIを自社で導入、運用するための人材や知識が十分に整備されていないことが多くあります。AIの活用に際して、実装段階が最も大きな壁の一つです。多くの企業では、一昔前の技術を前提として業務が設計されており、AIに適用する形に変更するには、組織の複雑さを踏まえたうえで最新技術を実装し、既存の業務プロセスやデータ環境に対応しながら、基盤技術の進化にも柔軟に適応できるシステムを構築できる現場レベルの人材が必要です。

ブラックストーンは、AIの普及に伴う課題解決に取り組んでいます。大手コンサルティング会社やベンダー、メーカーもそれぞれ取り組みを進めていますが、このAnthropicとの新会社はブラックストーンの投資先企業、さらには同様の特徴を持つ企業へのAI導入を加速させるため、既存の事業者がカバーしていない領域を補完することを目的として設立されました。Anthropicの先進的なAIモデルと、ブラックストーンの企業経営に関する知見およびネットワークを融合することで、多様な業種にまたがる数百社もの投資先企業へのAI導入を支援していくことを目指しています。今このタイミングでAIの実装能力を獲得することができた企業は、AIへの適応を先送りする企業に対して優位性を築くと考えられます。

重要開示事項

本コメントは、いかなる有価証券の売却の申込みまたは購入の勧誘を構成するものではありません。また、本コメントは、広範な市場、業界またはセクターの動向、その他一般的な経済・市場・政治情勢について論じるものであり、ERISAに基づく受託者として提供されるものではなく、リサーチ、投資助言、またはいかなる投資推奨としても解釈されるべきではありません。過去の実績は将来のリターンを予測するものではありません。

本コメントに示された見解は執筆者個人の見解であり、必ずしもブラックストーンの見解を反映するものではありません。これらの見解は本書日付現在の執筆者の見解を反映したものであり、執筆者およびブラックストーンは、本書に記載された見解の変更について通知するいかなる責任も負いません。

ブラックストーンおよびその関係者は、本コメントで言及または間接的に参照された企業の有価証券についてポジションを保有し、また売買を行う場合があります。さらに、当該企業に対してサービスを提供し、または提供を検討する場合があります。ブラックストーンおよびその関係者は、本コメントに記載または言及された資産クラスにおいて、第三者に対し報酬を得て戦略を提供する場合もあります。

将来見通しに関する記述
本コメントには、1933年証券法(改正を含みます)第27A条および1934年証券取引所法(改正を含みます)第21E条にいう将来見通しに関する記述が含まれる場合があります。これらの記述は、とりわけ人工知能の影響および投資機会に関する当社の現在の見解を反映したものです。これらの将来見通しに関する記述は、「見通し」「指標」「信じる」「予想する」「可能性」「継続する」「あり得る」「するだろう」「すべき」「目指す」「おおよそ」「予測する」「意図する」「計画する」「予定されている」「見積もる」「想定する」「機会」「もたらす」「予報」「可能」またはこれらの否定形、もしくはこれらに類する表現によって識別される場合があります。かかる将来見通しに関する記述は、さまざまなリスクおよび不確実性の影響を受けます。したがって、実際の結果または成果がこれらの記述に示された内容と大きく異なる要因が存在し、または今後生じる可能性があります。当社は、こうした要因として、2025年12月31日終了事業年度に係る年次報告書(Form 10-K)の「Risk Factors(リスク要因)」の項に記載された事項、ならびにその後米国証券取引委員会(SEC)に提出する書類において随時更新される事項等が含まれると考えています。これらの書類はSECのウェブサイト(www.sec.gov)で閲覧可能です。これらの要因は網羅的なものとして解釈されるべきではなく、本報告書およびその他の定期提出書類に含まれる他の注意喚起文と併せて読む必要があります。将来見通しに関する記述は本コメントの日付時点のものであり、当社は、新たな情報、将来の展開、その他いかなる理由による場合であっても、これらの記述を公に更新または見直す義務を負うものではありません。

Nestor Maslej他「AI Index 2025 Annual Report」。Stanford HAI, AI Index Steering Committee(2025年4月時点)。データ期間は、2022年~2025年。
SimilarWeb(2025年9月時点)。
マッキンゼー(2025年11月時点)。
ブラックストーンは、AIツールが業務効率を向上させ得ると考えていますが、容量の制約、モデルエラー、市場の不確実性等の影響を受けます。したがって、業務スピードの改善がリターンの向上につながるとは限らず、投資家の皆様に対してより良い結果を保証するものではありません。
Oxford Martin School「Technology and Jobs: A Systematic Literature Review」(2022年4月時点)。
データセンターホークおよびTD Cowen(2025年9月30日時点)。
ゴールドマン・サックス「Portfolio Strategy Research」(2025年3月時点)。
マッキンゼー「The AI revolution in software development」(2026年4月時点)。
鉄道はセントルイス連邦準備銀行。ドットコム・バブルはサンフランシスコ連邦準備銀行とOECD。ハイパースケーラー上位5社はモルガン・スタンレー・テック・リサーチおよび開示資料(2026年2月)